わくわくの日々

杉並区議会議員・松尾ゆりのブログ

河北健診クリニックの肺がん見落としで検証委員会(2018年8月21日保健福祉委員会)

 7月17日に公表された河北健診クリニックの肺がん見落とし事故(杉並区のお知らせはこちら)を受けて、杉並区が外部検証委員会設置の条例案を区議会に提案、本日保健福祉委員会で審議しました。
 河北病院といえば、阿佐ヶ谷の再開発の中心でもあります(関連記事:阿佐ヶ谷の森を守ろう(杉並区主導の駅前再開発に反対します))。今回の事故に関連して、病院経営の拡大路線が影響したのではという声もあります。
 約3時間の審議を通じて、区長の答弁回数がいつになく多かったことが印象的でした。そして、その答弁の内容は、事故の責任の所在を明確にするというよりは、逆に問題を一般化するような発言が多かったと思います。また、具体的な内容に踏み込むとすべて「それは検証委員会でやること」と棚上げしてしまう姿勢にも疑問を感じました。
 私の質疑は、外部検証委員会のミッション、区と医師会、病院側の責任の所在に注目しました。
(1)本件の患者さんは河北健診クリニックで3回にわたり肺がんを見落としされた結果、治療機会を逸して残念ながらお亡くなりになりました。3回目は区の肺がん検診であり、事業の運営主体としての区も責任は免れません。
(2)他方、実際の検診業務を行ったクリニックは、事後の検証(法人の内部検証報告書)において、2014年の1回目の見落とし(職場の成人健診)に以降の判断も引きずられてしまったことを明らかにしています。3回の連続する見落としの端緒、そしてその結果はクリニックに一義的責任があると考えます。
(3)なおかつ、区の肺がん検診である3回目の見落としにおいては、委託事業の実施要領にある「専門医の配置」が守られていませんでした(数年にわたって常態化していたことが質疑でわかりました)。さらに、見落としが発覚して後、区に対する報告も「速やか」とはいえません。委託契約の条項にある「事故の際は速やかに報告」にも反していました。
(4)設置される外部検証委員会では、これらの事実をあらためて検証するとともに、区、医師会、クリニックの三者の責任の所在を明確にすること。また、会議が非公開で行われるため、説明責任を果たせる議事録の作成、十分な情報公開を求めて、議案には賛成しました。
 以下、松尾ゆりの質疑要旨および意見。
(松尾)他の委員からも質問があったが、河北の内部検討委員会の報告書が本委員会に提出されていないことは、私も遺憾に思う。すでに私も情報公開請求をしているが、延長されており本日には間に合っていない。
(日暮健康推進課長)情報公開の第三者の保護に関する条項により、財団で行われた検証内容なので照会が必要と判断した。
(松尾)検討委員会のミッションについて。肺がん検診の見落とし事案の検証、今後の対策の大きく2つと説明された。お願いしたいのは、区、医師会、河北クリニックの三者に責任があり、その三者を検証委員会できちんと峻別、切り分けていただきたい。全部区がわるいといってボウズ懺悔でなく、区は何を求められているのかを明確にする委員会であるべき。
(日暮健康推進課長)事実関係をきちんと確認する必要がある。
(松尾)今回の経緯について。3回の見落としが同じ医療機関で行われ3回目が区民検診であった。区の責任があったとすれば、どういったところが問題だったと考えられるか。一義的には見落とした医療機関の問題では。
(田中区長)そのために第三者による検証委員会を提起している。検診一般について議論をするということであれば、厚労省や東京都で議論すればよい。こういう問題が発生したことを重く受け止め、今回の事案について区として事実関係を検証するフィールドワークをちゃんとやるべきだということで委員会を設置する。
 今回の事故の直接的な問題、あるいはそこにつながる背景、事情の有無も皆さんに十分検証していただきたい。河北内部の検証委員会の報告書も区の設置した検証委員会で検証するということでなくてはいけない。具体的にはその先に責任とか施策の改善が導かれる。
(松尾)区の検診実施要領の第10条にある「二重読影する医師のうち1名は、呼吸器又は放射線の専門医が望ましい」との条件が満たされていなかった。クリニックの院長も記者会見で「残念ながら私どもの施設では人員の配置は、呼吸器の専門、画像の専門を配置できていなかったことは否めない事実」と反省の弁を述べている。
 ところでお聞きしたいが、この状態が普段からそうだったのか、たまたまこの方の読影が専門家が入っていなかったのか、他の人の読影もそうだったのか。
(布施地域保健・医療連携担当課長)河北健診クリニックの院内検証委員会報告書によると、2015年秋、センター放射線科医の負担が大きくなり、区民肺がん検診の読影担当より放射線科医をはずす、ということが記載されている。29年度もだが、体制がとれていなかったと認識。
(松尾)こういうことがあるので、内部検証報告書を読みたい、ということなんですが、2015年に放射線科医をはずしていたということですね。すなわち、いまの状態も、他の人の読影も専門家が入らない状態で行われていたということか。
(布施地域保健・医療連携担当課長)2015年秋以降と記載されていたので、その間の検診について区として再読影を要請した。今年度(の検診)に関しては、この検証報告書が6月19日に提出されたところ、検診は6月1日から開始されるという事情をひかえて、区と医師会で協議して、今年度の河北クリニックの検診は二次判定、総合判定を医師会に引き上げた。
(松尾)次に、賠償責任について。委託契約書第6条2項に賠償責任の条項がある。今回訴訟になる可能性もある。この条項では検診のなかで起きた事故については区に賠償責任があるとなっているが、本件についてはどうか。
(日暮健康推進課長)現在賠償請求されているわけではないが、今後適切に対処したい。
(松尾)同項には「故意または重大な過失によるものをのぞき」とありここの判断が重要。同じ第6条の1項には事故の報告義務が明記され「応急措置を講ずるとともに速やかに報告」とされているが、この点について河北健診クリニックの対応は。
(布施地域保健・医療連携担当課長)区として口頭報告を受けたのが5月7日。その後、医師会を通じて報告書が届いたのが8日。
(松尾)資料によれば4月18日に、病院として見落としを把握しているが、区への通報は口頭により5月7日。正式には5月8日。「速やかに」とはいえないと思うが。
 また、クリニックから口頭で報告があったということだが、院長ということか。
(布施地域保健・医療連携担当課長)口頭報告時、河北健診クリニックのセンター長も在席していた。報告までの期間が20日間という点、河北からの報告があった時点で、もう少し速やかに報告していただけなかったのかということはお伝えした。
(松尾)区の肺がん検診に関する問題がどこにあったのかということについていうと、1つは専門医の配置について実施要領が守られていない状態が常態化していたことが一番大きい。もう1つは、区に対する報告が遅いこと、その後の経緯も非常に時間がかかっていることも問題があると思う。
 専門医の配置について、記者会見で院長が再発防止策を述べている。この解決策を見ても、専門医の配置についての問題点を改善することが読み取れない。区はどのように受け止めているか。
(田中区長)それは松尾委員の考えかと思うが、それがスタンダードだろうか。専門医というが、専門医が最初に見落としたのが発端。他の委員からは専門医がいないことが問題というが、専門医かどうかは、読影の技量とどの程度重なるのか、疑問はもつ。これらすべて検証委員会に検証してほしい。
 専門医、専門医というが、仮にいたとしても、検診の数が急激に増えていったときに、同じメンバーでやっていたら負担が重くなる。リスクが高まる。医療資源の分配のありかた、受診率の向上をどう見ていくのか。検診をするのは区だけでなく、各種の健康保険の健診もある。それを全部区が把握するのは無理。事実を検証するということがまず大事であって、責任をなすりつけてしまうような議論は排して、専門家にきちんと検証してもらう。
(松尾)事実を第三者に検証してもらうことは、共有されていると思う。
 私が言っているのは個人的な見解ではなく客観的な事実として、河北財団自身が報告している事実として、実施要領に規定されている専門医の配置ができていなかった事実が確認されている。これに対してクリニックの再発防止策というのが十分なのだろうかという疑問を呈したもの。
 ちょっと気になったので質問しますが、「専門医」とは何か。説明をお願いします。
(布施地域保健・医療連携担当課長)いろんな専門医があるが、一例をあげると〇〇学会認定の専門医、認定医という資格がある。学会により条件があり、臨床経験年数、症例数、などにより認定されたものを専門医とよぶ。
(松尾)だから、専門医というのは根拠があるということ。学会できちんと認定されている。キャリアや、それなりの技量がある人を専門医として認定している。区長は専門医が最初に見落としたじゃないか、というが、区は実施要領において、放射線科あるいは呼吸器の専門医によることと定めている。それが条件で委託をしているわけだから、それに逸脱する行為があったという話をしている。
 それから医療資源からみて、これだけのボリュームを見ることができるのかと区長がおっしゃって、それは私たちも危惧をしているところだが、分量が多いから見落としが増えるというと大変まずいことになってしまう。分量が増えたから免罪されるものではないし、区もそれを管理しきれなかった責任がある。関連して、ペナルティという話があったが、今後とも河北健診クリニックが指定医療機関(二次検査まで行う)としてやっていけるのかは無理があるように思う。
 関連して伺いたいが、委託している1件あたりの単価、ダブルとシングルとでそれぞれいくらか。
(布施地域保健・医療連携担当課長)肺がん検診の単価はデジタル撮影で7170円。撮影および一次判定で6252円、二次判定、総合判定を行うことで918円。合計で7170円。
<議案に対する意見>
 あってはならない事故が起きた。被害者のご冥福を心からお祈りします。
 本議案を検討するにあたり、河北財団側の内部検証報告書が提供されなかったことは大変遺憾である。提供された資料から判断するしかない。質疑をふまえ、委員会の設置は必要なものと認め、議案には賛成する。
 ただし、質疑の中で確認したとおり、本件は、3回の見落としのうち2回は民間の健診であって、3回目が区民健診であったところで区が関わってくる。こうしたことが引き起こされたのは、区の健診ではなく、河北健診クリニックの見落としが根源である。
 今後検証委員会で検討していくべき問題として、区の責任、医師会、河北健診クリニックの三者の主体の責任をきりわけて明確にすることが求められている。
 実施要領に反して専門医の不在が常態化していたこともすでに明らかになっている。また、委託契約の条項にある速やかな報告義務という点でも逸脱があった。こうしたクリニック側の責任が明確になることが必要と考える。
 最後に、非公開で行われるということについて。原則として公開で行われるべき案件と考えるが、個人情報にかかわることを峻別しがたいという説明もあった。したがって、この間私は杉並区の議事録について問題にしてきているが、十分な説明責任を果たせる議事録の作成、その上での情報公開を求め賛成とする。