わくわくの日々

杉並区議会議員・松尾ゆりのブログ

阿佐ヶ谷北口 開発ありきの地区計画に反対(2020年6月17日反対討論)

 阿佐ヶ谷駅北口開発について条例改正の議案に反対の立場から発言しました(2020年6月17日杉並区議会第2回定例会本会議)。

 この議案は、阿佐ヶ谷駅北口の「地区計画」のうち建築規制に関わる部分を条例に定めて強制力をもたせるものですが、残念ながら、阿佐ヶ谷北口開発の是非を問うものではありません。

 実は、区議会でこの開発について賛否を決めることは今後とも一切ありません。また、杉一小の敷地を河北病院の敷地と交換することについても、議会は賛否をいうことができません。「土地区画整理事業」という枠組みで、区長の決定だけで進められる、そういう手法をわざわざ選んでいるからです。

 駅前一等地の杉一小の土地(おそらく、約100億円の価値があると考えられる)を民間に譲るからには区議会が当然審議するものと思っておられる方が多いと思いますが、議会の決定は必要ないのです。

 これはおかしい、と私は一貫して言ってきましたが、区議会の大多数の皆さんは沈黙しています。区有地は区長が好き勝手にできるものだと思っているかのようです。それなら、区議会はいらないじゃないですか。

 この発言の中では、森の保全についても訴えています。区役所は「森を伐採してもまた木を植えるのだから問題ない」とごまかして、区長が進める開発を正当化していますが、その欺瞞について述べました。

 少数の大企業や地域の有力者のために区民の財産を安売りし、歴史的なまちのありようを壊す開発は許せません。

(以下は原稿です。実際の発言と違うところがあります)

 議案第61号杉並区地区計画の区域内における建築物の制限に関する条例の一部を改正する条例について意見をのべます。

  本議案は、先に都市計画決定された阿佐ヶ谷駅北東地区地区計画を受けて、建築制限に関する規定を条例に定めるものです。この地区計画は「街並み誘導型地区計画」という緩和型地区計画です。この地区計画を導入し、同時に容積率用途地域の変更が行われたことにより、けやき屋敷には容積率300%、高さ40m、また、杉一小敷地には、容積率500%、高さ60mの、これまで建てられなかったビルを、しかも斜線制限等の緩和により容積を使い切って建てることが可能となりました。

【開発ありきの地区計画】

 河北病院の建設、及び杉一小跡地を利用した開発行為は、従来の建築制限では不可能でしたが、これらの緩和によって初めて可能になったものです。したがって、この地区計画は開発ありきの地区計画、開発のための地区計画、もっといえば、河北病院と欅興産という民間のパートナーを利するための地区計画でしかなく、阿佐ヶ谷のまちの発展および環境保全に寄与するものとは全く考えられません。

 阿佐ヶ谷北東地区の開発に関しては、これまでも論じてきたところではありますが、区議会の議決事項としてはこれが最初にして最大の賛否の場ですからあらためて述べます。

  本件開発は、けやき屋敷の樹林の消滅、杉並第一小学校の移転先の土壌汚染の可能性と軟弱地盤、さらに杉一小が移転した跡地に高層ビルの建設という3つの敷地それぞれに対する疑問と批判があります。しかも、駅前の一等地である杉一小と土壌汚染の可能性があり軟弱地盤である河北病院の敷地を権利交換することは区にとって不利な取引だということもさんざん指摘してきました。

豊洲市場と同じ「汚染地ロンダリング」】

 汚染の可能性のある土地と、駅前の一等地の交換を、それぞれの土地の売買ではなく、土地区画整理事業という形で行い、価格が明示されないように、うやむやにして行うという手法は、悪名高い豊洲市場敷地をめぐって東京都が行ったのと同様の汚染地のロンダリングだということも指摘してきましたが、民間事業者に不当な利益を供与するものとして、あらためて指弾するものです。

 しかも、個人施行の土地区画整理です。杉並区が地権者として加わり、しかも、駅前のきわめて公共性の高い場所の開発です。仮に土地区画整理事業を行うにしても、どう考えても公共施行として、都市計画決定により公明正大に行うのは当たり前のことです。ところが、区は個人施行を選びました。

【田中区長が申請して田中区長が認可】 

 その結果何が起きたか。都市計画決定を要しないばかりか、施行認可に関しては、都知事の許可をとる必要がなく、田中区長が申請して田中区長が認可するというひとり二役が可能になりました。さらに、換地にかかわるほとんどの情報は、個人情報、企業情報として議会の目から、また区民の目から隠されました。

 1つ1つの土地が鑑定評価にもとづき売買されるのではなく、点数による相対評価、しかもその評価の正当性を保証するはずの3人の評価員の姓名はいまだに公表されていません。

 常識的な鑑定では、杉一小の土地は河北病院用地に対して坪当たり3倍から4倍の価値があると考えられるのに、換地計画では極めて低く評価され、杉一小用地に残る区の土地は現在の4分の1程度にすぎません。当初区が説明していた3割にも届きません。予算特別委員会で指摘したとおり、区が委託した鑑定価格で計算してさえも、区の取り分が減ってしまう結果が出ています。

【土壌改良、杭打ちで、学校改築予算は二倍に】

 しかも、土地区画整理法に規定された「照応の原則」を全く逸脱しています。仮に河北病院の土地に小学校を建設するとすれば、区の委託により試算されている土地の除去費用7億円余に加え、さらに、土壌改良及び杭打ちに20~25億円がかかるだろうと言われ、それはすべて区の持ち出しとなります。これだけで新しい学校が1つ建つ金額であり、杉一小の移転は通常の2倍の予算がかかる可能性があります。

これら、全く不当な土地交換かつ無駄な出費であり、区民の財産を毀損するものとして、絶対に認められません。

 【「緑化」は森の「保全」ではない】

 さて、議案に戻ります。本議案には、緑化率の最低限度が規定されています。都市緑化法の制度を利用し、地区計画区域に対して緑化率の規制を設けるものであり、それ自体は有効な施策と評価します。また、本件開発において、けやき屋敷のみどりを守ろうと努力されたであろう所管の職員さんの努力には敬意を表します。

 しかし残念なことに、法に規定された25%ではけやきの森は守れないのです。これについては、先日の一般質問でも詳しく述べましたが、再度概括します。

 まずみどりの「保全」と緑化は違うということです。けやき屋敷の森は「保全」すべき森であり、はだかの土地に新たに生み出す「緑化」ではありません。

 私が入手した河北病院の建築案には緑化率28%とありました。25%はクリアしていますが、わずかです。しかも、緑化率ですので、樹木が保存される保証はありません。新しく植える緑、管理にお金のかからない低木や、極端な話、芝生になってしまう可能性もあります。したがって、私は先の一般質問で「地区計画緑地保全条例」の導入を求めましたが、区の答弁は否定的なものでした。

 また、地区計画において、拘束力はないながら地区計画の「整備開発及び保全の方針」の部分に25%より高い、例えば30%以上の緑化率を書き込む方法もあり、緑化率条例は本件開発において、必ずしも最善とは言い切れません。

【「木を切ってもまた植えればいい」とのいいぐさ】 

 緑化に関してこの間杉並区は、木を伐っても、沿道緑化など緑の創出も行うから問題ないという言い方をよくします。しかし、保全と緑化の違いが分かっていれば、こんな言い分はお笑い種です。森は木だけで構成されているわけではなく、特にこのけやき屋敷は、400年以上の歴史を刻んできた中で長く保たれてきた生態系がそこにはあります。

 一般質問でも指摘したように、区内でもあまり見られなくなった動植物がここには生息できています。人工林ではあるものの、自然更新の二次林として安定した生態系が形成されている森は、現在の杉並区、特に阿佐ヶ谷地域にとっては、失ったら二度と戻らない貴重なものです。それを「木を伐ってもまた植えればいい」などといういいぐさには怒りを覚えます。

 都市環境委員会の質疑の中で、吉田副区長は、ここの森を伐採しても、他方で馬橋公園の拡張で木を増やすから、地域をトータルで見れば緑は増えるじゃないかという趣旨のことを発言していました。これは二重、三重に誤りです。

 まず、先にのべた生態系の保全という意味で、森を伐ってはならないということと、新たに木を植えることは全然、意味も価値も違うということ。第二に、馬橋公園は高円寺地域に属し阿佐ヶ谷地域ではないということ。第三に、阿佐ヶ谷地域は、区の調査により、区内でも最も樹林率が低い、高円寺地区よりも樹林率が低い地域です。その阿佐ヶ谷の樹林をさらに減らそうとしている誤りです。

 吉田副区長は都市整備畑を歩いてきた方であり、現在も副区長二人制の下で、都市整備部門をその所管としている副区長です。ですから、いま述べたようなことはご存じないわけがないだろうと思います。知っていてなお、委員会において、このような発言をされることは、氏の専門的識見には私も敬意を抱いているだけに残念です。

【歴史的な汚点】

 伝統ある杉一小学校、お寺、神社、そして病院と緑の森が位置するこの場所は、鎌倉古道に沿った由緒あるまちの中心であり、杉並区の中でも特別な場所です。軽々しく開発に供してはならない場所です。それがいま、田中区長のもとで愚かにも開発されていこうとしていることは、歴史的な汚点です。

 いったん立ち止まって、まちの在り方、みどりの森と調和した病院の移転、まちづくりのありかたをもういちど考えなおすことを改めて訴えるとともに本議案には反対の意見といたします。