わくわくの日々

杉並区議会議員・松尾ゆりのブログ

阿佐ヶ谷再開発の情報公開を求める裁判で意見陳述しました

 2021年9月3日東京地裁で行われた公判(令和2年(行ウ)第299号 行政文書非公開処分取消請求事件)で意見陳述を行いました。

(以下原稿。小見出しはブログ掲載のためにつけました)

 本日は、お時間をいただきありがとうございます。原告として考えを述べさせていただきます。

1.提訴に至った経緯

(1)阿佐ヶ谷駅北東地区土地区画整理事業とは

 はじめに、本件請求の対象とした事業について説明します。

 被告杉並区は2016年より、区内阿佐谷北1丁目の区有地を含む土地区画整理事業を計画してきましたが、現在はすでに事業に着手した状態で、民家の解体や屋敷林の伐採などが始まっています。

 この事業については、その計画が明らかになるにつれ、近隣住民をはじめとする区民の中から、懸念や疑問の声が上がり始めました。

【事業の問題点:とくに公有地の処分】

 この事業の問題点は、屋敷林が伐採され、緑の少ない阿佐ヶ谷のまちに残った貴重な緑がなくなってしまうこと。病院や再開発ビルの高層化がこれまでの低層の住宅地にそぐわないこと。など多く指摘されてきましたが、なかでも、小学校を病院跡地に移転する計画には違和感が否めません。

 被告も認めているように、この杉並第一小学校の土地はJR中央線阿佐ヶ谷駅前で補助幹線道路に面する一等地です。一方、移転先である現在の病院用地は低地で軟弱地盤である上に、病院用地であったことから汚染地としての土壌の処理が必要となります。どう考えても等価交換となりようがありません。

【「照応の原則」を満たさない】

 また、土地区画整理法では、換地つまり土地の交換においては、位置、地積、土質、水利等がそれぞれ照応しなくてはならない、いわゆる「照応の原則」を満たす必要がありますが、この換地ではそれが満たされない可能性が非常に高いことも問題です。

 すなわち、杉並区は区有地のなかでも最も価値の高い杉並第一小学校の土地を、みすみす条件の悪い民間の土地と交換してしまうのではないか、つまり区の財産が毀損されてしまうのではないかという疑問に対し、私は、区議会議員として事実を明らかにする責務があると考えました。

(2)裁判に至った経緯

 次に、一連の経緯を述べます。

【港区は公開したのに杉並区は…】

 杉並区は2019年8月にこの事業を施行認可し、10月には事業の個人共同施行者である欅興産、河北医療財団とともに3者で仮換地処分を行いました。その際、区議会、区民に対しては一切説明がありませんでした。

 港区が同じ個人共同施行の土地区画整理事業を実施した折、1年も前から区議会に対して全面的に情報を提供して公開の委員会審議に付したことは証拠として提出しましたが、杉並区の態度は同じ行政としてきわめて不適切です。

【区議会での質疑】

 そこで私は、同年11月の区議会において、区議会に対し事前の説明がないまま仮換地に同意したことは不当で、いったん撤回すべきこと、そして、不動産鑑定を行い適切な価格によって仮換地指定をやり直すこと、また、共同施行者2法人の仮換地情報は公開すべきこと、等を求めましたが、杉並区長はこれらを拒否したばかりか「ご納得いただけないというのであれば、あとは裁判にでも何にでもお訴えされる以外ない」と述べる始末でした。

【情報公開で「のり弁」】

 議会において情報が得られないので、次に私は情報公開請求を行いました。その請求に対する決定が、本件訴訟の対象となっている行政処分です。内容についてはこれまでの書面に詳しく述べていますので省略しますが、仮換地に関する書類が何枚も全面真っ黒に墨塗りされていたことには衝撃を受けました。当時は国会でもいわゆる「のり弁」が話題になっていましたが、まさか杉並区で同じものを見せられるとは思いませんでした。そこで、2020年3月に不服審査請求を提出しました。

【不服審査を行ったが】

 ところが、その提出時に、窓口で「現在2年半ほど前の請求を審査しているところなので、しばらくお待ちいただくことになる」と聞き、再度驚きました。

 不服審査の期限を設けている自治体も多いなか、杉並区は期限がないため、いつまでたっても審査が進まないのです。仮に請求が認められ情報を入手できたとしても、それが数年後では、事業は進んでしまい、あるいは完了してしまい、情報の意義がなくなってしまいます。形の上では不服審査という救済制度がありながら、杉並区では全く機能していないのが現実です。

 ここに至って、議会質問の際、あれほどかたくなに私の要望を突っぱねることができたのは、どんな情報も区が隠そうとすれば、それを牽制する機能は事実上どこにもないことを知っていたからだとわかりました。

 同僚議員も審査請求したが、2年たっても審査されず「どんな内容だったかなあ。思い出せない」と言います。そして「訴訟をしたほうが早く結果を得られるのでは」と言われました。

 この方の助言もあり、また、私自身、結果を早く得たいということ、さらに、杉並区が情報公開に対して真摯に向き合わないのであれば、訴訟もやむなしと思う一方、費用と労力のことを思えば正直、訴訟をしたくはありませんでした。

 しかし、杉並区の情報公開において、今後もこのような実態が放置されることがあってはならないという気持ちが勝ちました。先の区長発言も踏まえて、司法の判断を仰ぐしかないという思いで、本件訴訟に至ったものです。

2.法の網をかいくぐる所業

 最後に、訴えの原因となった杉並区の事業のありかたへの疑問を聞いていただきたいと思います。

 ひとことで言ってしまえば制度の悪用です。土地区画整理事業、しかも個人施行の手法を使うことにより、複雑な制度に精通した専門家であっても、まさかとおっしゃるようなことが起きています。

【売買ではないから議会で審議しない】

 第一に、土地の売買ではなく換地として所有権の移転が行われることです。

区有地は原則として区財産価格審議会および区議会の了解がなければ売買することは許されません。しかし土地区画整理事業は売買ではないため、この規制を逃れることができます。

 本件事業は土地区画整理事業の目的とする道路の整備がわずか数パーセントと極めて少なく制度の趣旨にそぐわないこと、また地権者が少数であり、区画整理でなければ事業目的が達成できないようなものではないこと、それにもかかわらず、この手法を選んだことには、財産処分の審査を逃れようとする意図が容易に想像されます。

【杉並区が主体なのに「個人施行」】

 第二に、区が主体で行うのに公共施行ではなく個人共同施行が選ばれていることです。公共施行の場合には、都市計画決定が必要ですが、個人施行なら必要ありません。また、公共施行は都知事の認可が必要ですが、個人施行は区長が認可します。つまり事業実施主体である区長が同時に認可権者といううまみがあります。

 第三に、開発許可の例外です。例えば東京都の「東京における自然の保護と回復に関する条例」による規制があります。同条例は大規模な自然地の開発行為について許可制としています。しかし、土地区画整理事業は例外的に許可ではなく協議の対象とされています。

区画整理事業法の理念とは】

 このような土地区画整理事業の例外的なありかたは歴史的経緯によるものです。

 そもそも、戦前の都市計画法が生きていた1954年に土地区画整理法はつくられました。1968年に現在の都市計画法がつくられ、開発行為は開発許可によって規制されるところとなりましたが、土地区画整理事業については、すでに存在する土地区画整理法により審査が担保されるということが前提で除外されたものです。1998年出版の「都市計画法規概説」には「都市計画上必要な規制が行われるので、開発許可については適用除外とされている」と解説されています。

 こうした法制度の仕組みや歴史を無視して、違法でなければ何をしてもよいかのようなやり方は、民間のディベロッパーならともかく行政としてはありえないことです。法の趣旨をはき違え、法の網の目をかいくぐるような行為といえます。

3.まとめ

 以上述べてきた通り、本件訴訟は、区民共有の区有地という財産が毀損されることのないよう、適正な情報公開を求めるものですが、私の思いは、自らが幼少時からなじんできた阿佐ヶ谷のまちとともにあります。

 今回開発対象となる屋敷林は400年以上の歴史を持ち、寺院、神社、小学校とともに鎌倉古道に連なる独特の風景を形成しています。明治時代に地域の一等地を選んでつくられた区内最古の杉並第一小学校は創立146年です。強引な再開発によるのではなくこうした阿佐ヶ谷の歴史的な、懐かしい風景を後世に残していきたいと願う一人の住民として、行政のありかたを正していきたいと考えています。

 裁判所におかれましては、こうした背景もご理解のうえ、原告の請求をお認めいただきますよう、心よりお願い申し上げます。