わくわくの日々

杉並区議会議員・松尾ゆりのブログ

生活保護に関する杉並福祉事務所の不適切な対応について(2021年9月14日の発言)

 2021年9月14日、杉並区議会本会議において質疑しました。生活保護受給者に対して区職員が虚偽の説明をするなどして苦痛を与えたとする裁判についての報告に対するものです。

(報告の内容はこちら↓ 文中の(1)(2)イ、エなどはこちらの引用です。

報告第11号 地方自治法第180条第1項の規定により指定された和解の専決処分をしたことの報告について

 区役所それも福祉事務所という、最も弱い立場の人とかかわる職員にあるまじき対応が見られたことは、杉並区役所全体が深く反省してほしい事案です。

(以下、発言原稿です。実際の発言とは異なる場合があります)

 報告11号について質問します。報告11号は、生活保護を受給している杉並区民の方が福祉事務所職員の対応により苦痛を受けたとして損害賠償を求めた裁判についての和解です。

 昨年3月10日の予算特別委員会において、私はこの訴訟について質問しました。当時は係争中であり、争いの内容について踏み込んでお聞きすることはしませんでしたが、和解という形で裁判が終結したので、報告書には書かれていないことも含め、やや詳しく訴訟の内容を確認した上で、質問は最後にまとめて述べます。

生活保護担当職員が虚偽の説明】

 原告が損害賠償請求の対象とした被告杉並区の職員の不法行為は2つありました。

 1点目は、報告書にもあるように、原告が当時申し立てていた審査請求について、この審査がまだ終わっていないにもかかわらず、当該職員が原告に対して請求は「棄却された」と虚偽の説明をして返還の書類にサインさせようとしたことです。

 原告が裁判所に提出した訴状および録音によると、審査の結果がまだ出ていないと主張する原告に対し、当該職員は「棄却すべきである」と書かれた審査員意見書の「すべきである」の部分をあえて略して「棄却」と読んで聞かせ、「棄却になったんですね」「棄却、とあります」などと虚偽の説明により原告を誘導しようとしました。

【保護費を人質に長時間サインを迫る】

 二点目は、保護費の返還に同意する書類へサインを執拗に迫り、サインしないかぎり保護費を渡さない、と1時間にわたり執拗に原告を説得したことです。訴状および録音によると、サインを迫られた原告は「もう帰りたい」「書けません」「もう一度来ます」など、何度も断りましたが当該職員は「いや、返還を始めていただければ、お金、お渡しできます」などと述べ、返還に同意するサインをしなければ保護費を受け取れない状況に原告を追い込みました。

 詐欺的な言辞を弄して、虚偽の説明を行ったり、長時間にわたってサインを強要し、あろうことか保護費を人質にとったことは、きわめて悪質な対応と受けとめるものです。

 原告は、当該職員の一連の行為により極めて大きな精神的苦痛を受け、損害賠償を求めて本件提訴に踏み切りました。

【「著しく違法性の高い不法行為」】

訴状において、原告は「当該職員(訴状では実名)の行為は、保護受給者に対して、現場で生活保護を確保する直接の業務に従事するケースワーカーが、徴収金の天引きを約する書面にサインをしなければ、保護費を渡さないと迫り、強引に天引きを実現しようとして、保護受給者である原告の生存権を脅かすとともに、そのような手段によって、保護費の天引きに応じるか否かについての原告の自由を侵害したものであり、著しく違法性の高い不法行為である」と厳しく断じています。

【なぜこのような事件になったのか】 

 ところで、私の経験では、杉並区の生活保護の窓口はみなさん親身な対応でしたし、また他区の支援団体の方などからも、杉並区の評判は決して悪いものではありません。むしろ評判がいいといってもいいくらいです。

 それなのに、なぜこうした事件が起きてしまったのか。職員個人の問題なのか。福祉事務所に話を聞くと、当該職員は決して高圧的な人ではなく、むしろ日頃は丁寧な対応をしているとの評価でした。では、どこに原因があったのか。区の管理体制はどうか。職員への指導はどうだったか。

【区民の救済よりも債権回収を優先?】

 個人的な感想ですが、録音の反訳を読むと、この職員の執拗さの背景には何かしらの強いプレッシャーの存在があるのではとも感じられます。

 この問題は区にとっては債権の回収という問題であるため、もしも、福祉事務所内部、あるいは区全体の体制として、1円でも多く、1日でも早く返還させなければならないという圧力が働き、生活に困窮した原告の救済という、福祉事務所本来の責務よりも債権回収が優先されたとすれば、本末顛倒で許されることではありません。

 区はこのような事案を繰り返さないため、和解条項に確約した生活保護事務の改善を徹底していただきたいと思います。

【杉並区としての対応は?】

 以下、まとめて質問します。まず、一連の事実経過について2点質問します。

 第一に、訴訟に至る一連の事実の起点となった、原告のマンション売却とそれに対する福祉事務所の返還請求処分の経緯を時系列で説明してください。(Q1-1)

 第二に、提訴後の経緯として、杉並区内部、特に福祉事務所としての検討経過とその内容を説明してください。(Q1-2)

【和解条項の遵守を求める】

 次に、和解条項を踏まえて、今後の区の対応についてうかがいます。

 第一に、(1)で被告杉並区は原告への謝罪を行うとありますが、文書、口頭など、どのような形で、誰が、謝罪を行うのか。あるいは、行ったのか。(Q2-1)

 第二に、(2)のイにおいて状況により複数の職員で面談にあたるとあるが、これまでの生保事務においてそうした例はあるか。また、この条項の意義を説明するよう求めます。(Q2-2)

 第三に、(2)のエで、不利益処分については3事務所合同で検討する等とあるが、本件返還請求にあたってはどのような検討体制だったのか。また、これまで3事務所による検討の実績はなかったのか。(Q2-3)

 最後に、かなり具体的かつ詳しい和解条項ですが、これを誠実に履行し、生活保護事務を改善することが求められます。杉並区としての決意を伺って質問を終わります。(Q2-4)

【区側の答弁要約】(答弁:喜多川保健福祉部長)

Q1-1:生活保護法63条にもとづき原告所有のマンション売却を指示。2016年10月に売却され12月に原告から被告杉並区に対して収入申告があったため返還請求の決定を行った。その後、未申告の収入であると誤って判断し、法78条に基づく返還手続きをとった。原告はこれを不服とし処分取消の審査請求を行い、その後請求が却下されると、処分取消を求める訴訟、さらに本件賠償請求訴訟が提起された。

Q1-2:2020年にあらためて当時の担当者以外複数名で検討を行ったところ78条処分が不適当であったことが判明。2021年5月、同処分を取り消す決定を行った。

Q2-1:すでに文書で謝罪を行った。さらに今後、福祉事務所長と担当係長が面談して直接謝罪するとともに、以降の対応をご相談する。

Q2-2:これまでも担当職員のほかに複数で面談を行う場面もあった。担当以外が同席することで客観的な視点が入る意義があると考える。

Q2-3:78条処分などの不利益処分について、これまでは各事務所で判断していたが、困難事例などは3事務所(注:荻窪、高円寺、高井戸)合同で検討することとした。

Q2-4:和解条項を誠実に履行し、職員の研修、コミュニケーション能力の向上など、受給者に寄り添ったより適切な生活保護事務を履行していく。