わくわくの日々

杉並区議会議員・松尾ゆりのブログ

杉並の歴史教科書採択ついに決着(傍聴記)

(各委員の発言は私のメモと記憶によるもので正確ではありません)
教科書採択の教育委員会、議事は1時から始まり、最初に国語、そして社会という順番でした。国語はすんなりと現行の光村に決まりましたが、大蔵、宮坂委員が「反戦教材、たとえば井上ひさしの「握手」が載っているのはよくない」と文句。
社会は地理、歴史、公民の順。地理の審議に入る前に、大蔵委員長が「3分野共通の問題として」と話し始めました。中国の地名、人名を中国読みでカタカナ表記するのはおかしい。その点、自由社は日本よみ、育鵬社は日本よみに中国よみを補っている。また、領土問題では、帝国書院だけ竹島の記述がないのはよくない。」これにこたえて宮坂委員が「まったくそのとおり。領土についてはきちんと書くべきだ」といいながらも帝国でもよいとの意見。田中委員、対馬委員「地図帳で帝国を使ってきていることもあり、帝国がよい。」井出教育長は「社会科の特性として、3つの分野の関連性が大事。歴史との相関という点から帝国がよいのでは」(これが伏線ですね。)
大蔵委員長のまとめ「歴史、公民、地理はそれぞれ独立して採択するもの」「帝国には竹島などいくつか問題はあるが、地図帳は帝国がよいし、それとの関連で地理は帝国に」
次が肝心の歴史。大蔵委員長はここで長々としゃべり、ひんしゅくでした。まず押し付け憲法説を披露。それから、他社批判。「少数民族問題が書いてあるが、少数民族というのはいずれにせよ抑圧されるものだ。いじめたとかそういうことじゃなく、社会が発展する過程で、いい悪いは別としてなくなっていくものは仕方ない」「江戸時代で百姓一揆についていろいろ書いてあるが、江戸時代は全体としてうまくいっていた、非常に豊かな時代であったことがきちんと書かれていない」「東京書籍などは、昔の教科書をひきずっているが、育鵬社自由社は新しいつくり方をしている。育鵬社はつくりは下手だが新しい視点で書かれている。」(つくりが下手じゃダメじゃん…)「対アジアで帝国主義的だったとか書いているが、国際連盟に人種差別禁止を提案したのは日本だ。欧米によって否決されたが。これは日本が日露戦争に勝って武力を蓄えたことによってできた」「これらの観点から育鵬社がよい」
宮坂委員「大蔵委員長に賛成。昔の人たち、父祖が何を考えてきたかを教えるべき。神話が大事。神話をとりあげているのは育鵬社自由社。」「大東亜戦争という用語を使うべき。太平洋だけでなく大陸でも闘った。アジアは大部分ヨーロッパの植民地だった。」「(他社は)任那帰化人などの用語が使われていない」「秀吉の朝鮮侵略と書かれているが、今日から見て侵略ということで当時は違う」「江戸時代の記述は一揆が多いのは階級闘争の視点だ。同時代の他国と比べ江戸時代は発達していた。その点育鵬社自由社がよい」「2社は反戦平和の視点が弱いというが南京事件だって書いてある」「この国に生まれた幸せ、祖先にまけないですばらしい国をつくろうという教育をすべき。犯罪者の子孫と教えるのはよくない。」
田中委員「子どもの立場、教師の立場の両方から考えるべき。自宅学習でも使えるもの。発達段階に応じたもの。これらの点から公平、客観的、多面的なものでなくては。地歴の関係も重要。若い教員にもつかいやすいものを、という点から東京書籍もよいが、帝国を推したい」
対馬委員「社会科で身につけるのは問題解決、判断力、思考力など。教科書をそのまま覚えるのでなく、なぜその事件が起きたか。自分ならどうしたか、など考えることが必要。育鵬社はそういう部分が少ない。帝国は考えさせる部分がある。いまの教科書(扶桑社)がよいという話は聞かない」「育鵬社自由社は内容のバランスに問題。発展性、考えさせる部分が少ない」
井出教育長「宮坂委員の意見に間違いがある。犯罪者の子孫、というが、そういう記述をしている教科書はひとつもない。また、一揆について、たとえば帝国書院では12行書いているが、江戸時代についてはむしろ、経済的、文化的発展を主に書いており、暗い時代という取り上げ方はしていない。帝国を推薦」
このあとさらに各委員が意見をいいました。大蔵委員長は帝国書院に細かい間違いがあると指摘。田中委員は「育鵬社自由社は発展的学習が不足。杉並は学力調査でも社会の「よみとく力」が少し低いことと関係があるのでは」と指摘。対馬委員は「保護者から、扶桑社版では問題集、もぎ試験など対応していなくて困ると聞いている」
大蔵委員長が重ねて「扶桑社は特徴を出すために誇張した部分があったが(それをひきついだ)育鵬社はよくなっている」とのべると、対馬委員が「2社の教科書は、賛否とも最もたくさんの意見がよせられている。賛否がはっきり分かれているものを、あえて教科書として使うことはないのでは」
宮坂委員、大蔵委員長が反論しようとしますが、田中委員も同意見を述べました。対馬委員はさらに「扶桑社は教員が使いにくいともきいている。先生の教える意欲という点からも使いやすいものを」。すると大蔵委員長が「そういう意見をお聞きになったかもしれないが、私たちは学校調査資料で判断する。学校調査にはつかいにくいという意見はない」。対馬委員「いえいえ、私もその同じ資料を読んだんです。その中に、生徒を活動させる場面が少ない、といった意見が書いてあります」と反論。
これで決まるのかと思いましたが、委員長が突然保留にして公民へ。
公民でも、また、大蔵委員長がべらべらと自説を展開。育鵬社を推す。対馬委員は帝国または教育出版。田中委員は東京書籍か帝国。宮坂委員「権利と義務、自由と責任をしっかり教えること。現在の日本文教出版はマンガが多すぎる。家族、宗教、愛国心をしっかり教える自由社育鵬社」井出教育長「他が帝国だから自動的に帝国というわけではないが、帝国は持続可能社会ということをこの教科書で一貫して追求しており、ふさわしい」
その後、少し意見が出ましたが、結局、大蔵委員長が諦め、「社会はすべて帝国書院」と決まりました。
そのとき、私たちのいた傍聴室(音声のみ)では拍手の音がわきおこり、しばらく鳴り止みませんでした。傍聴していた前教育委員のYさんに次々と皆さんが握手を求め、声をかけ、それに応えるYさんの声が潤んでいたことが、長かった10年の重みを感じさせました。