わくわくの日々

杉並区議会議員・松尾ゆりのブログ

病院跡地への杉並第一小学校移転反対(2024年3月15日杉並区議会予算特別委員会)

 2024年3月15日杉並区議会予算特別委員会において意見開陳を行いました。

 来年度予算、いろいろありますが、何よりも、杉並第一小学校を病院跡地に移転する計画が予算化されたことは許容できません。岸本区長の選挙公約とも異なります。阿佐ヶ谷の人たちが岸本さんに期待して投票した思いは裏切られました。

(以下は原稿です。実際の発言とは異なる部分があります。)

 令和6年度一般会計予算案について意見を述べます。一般質問でも述べたように、病院跡地かつ浸水地に小学校を移転するという全国でも前例のない、とんでもない計画である杉並第一小学校の移転改築検討・設計がいよいよ予算案に計上されました。

【岸本区長に期待した阿佐ヶ谷地域の人々】

 この事業について、当初より私は、学校の移転に反対し現地改築を求める地元の強い声を受けて、議会で追及してきました。一昨年には、本件を発案した田中前区長に代わり、岸本区長が「駅前再開発の見直し」をかかげて当選し、地域の方々は希望に胸を膨らませました。

 昨年8月から始まった「まちづくりを振り返る会」のプロセスは、一方的な説明と質疑に終始しつつも、この先に豊かな対話の場が開けていくものと期待したのです。

 ところが今年1月22日に岸本区長は、杉一小移転を中心とする現計画を推進していく決断をした旨のビデオメッセージを突然発信し、地域の期待は裏切られました。学校に関わっている地域の方は「5年間放置して、たった5か月で推進決定ですか」とあきれ、嘆いておられます。

【学校運営協議会はほぼ全員が移転反対】

 特に杉一小の学校運営協議会では、二度にわたる区長との懇談において、ほぼ全員が移転には承服できないとの意見をはっきり述べられています。教育委員会が一人一人呼び出して説得に努めた後でも意見は変わっていません。

 これら学校関係者はじめ疑問を持つ地域住民の方々に対し、区長はビデオメッセージで「反対の方は、にわかに気持ちを切り替えるのは難しいだろうが」などと発言していますが、行政にありがちな「反対意見は情緒的なものに過ぎない」という決めつけをそのまま言い換えたような、偏見に満ちた言葉であり大変失礼です。

【移転のメリットは全く語られない】

 区長ビデオメッセージでは、計画を見直すことの困難さや、住民の対案に対する批判はあったものの、決断の根拠はすべてネガティブなものであり、移転を進めることについてのメリットや前向きなメッセージは伝わってきません。

 これは教育長も同様であり、学校運営協議会との懇談でメリットを問われて「広くなる」ことしか言えなかったのは、教育者として、胸を張って病院跡地へ移転することが素晴らしいなどとは、やはり言えないということだと思います。

 このような、行政、教育のトップの心もとない見解のもと、この事業が新年度予算に計上されて船出することを看過することはできません。

【皆わかっている病院跡地の問題点】

 これに限らず、病院跡地に移転したら素晴らしい学校になるというポジティブなメッセージはどこにも見られません。前区長の著書にあるように、役所の多くの方がこの計画の不当さを知っているからではないでしょうか。

【区の土地を半額で安売り】

 質疑において私は、A街区、C街区の一部の土地について、区における実際の賃貸取引事例で杉一小敷地は病院の3倍の価格で取引されていることを確認しました。区画整理の換地では約1.5倍とのことなので、区有地が半分の価値で安売りされるのと同じことです。

 区の答弁においては、何ら根拠もなく、街区全体を評価した場合には、その差が縮まるかのような答弁がありましたが、それは誤りで、賃貸しているそれぞれの敷地の位置から判断すれば、A街区全体の価格はさらに上昇する可能性があるものの、C街区においてはむしろ減価要因が考えられるところから、評価しなおした場合3倍の格差ではすまないと思われます。

【病院敷地は二束三文の土地】

 換地の不均衡については区内在住の公認会計士さんから疑問が呈されているところ、区長も所管も明快な説明を行っていません。

 地域の人であれば、誰でも、杉一小の敷地が地域の高台で駅近のいい土地である一方、病院敷地が二束三文の土地であることは知っています。その交換にあたり、これほど区が損をするような計画を決めたのは前区長ですが、今回の決断により、すべては岸本区長の責任となります。土地交換の不均衡については、今後も問題になっていくでしょうし、同時に、この計画が続くかぎり、未来永劫住民の不信感がぬぐい去られることは絶対ないでしょう。

【「対話の区政」とは何だったのか】

 何よりも区民に失望を与えたのは「対話」に対する区長と区民の認識の違いです。「対話」とは、行政と住民、また住民の中でも賛成、反対、中間といった多様な立場の人々がそれぞれ意見を交換しあうことによって、100%とは言わないまでも、よりよい解決に到達する合意形成の過程のことかと私は思っていましたが、それはナイーブに過ぎたようです。

 この5か月行われたことはあくまでも行政側の「説明会」にすぎず、そこから踏み出していません。施設再編や道路問題で1つのテーブルについて行政と住民が意見を交換しあおうという萌芽があるのに、杉一小だけなぜそれができないのでしょう。理不尽です。

 区長は「このかんの対話になにひとつ無駄なことはない」といいますが、都合のいいところをピックアップしているだけで、不信や疑問の払拭にはなんらつながっていません。その限りにおいて「すべてが無駄」です。

【なぜ、既定路線にかじを切ったのか】

 住民懇談の議事録をみると、この問題を、区長は「就任直後から区役所の中でずっと言ってきたが、実現しないことに自分自身、苦しい思いをしてきた」と述べていますし、また、6年前なら変えられた、という言い方からも、決してこの移転計画がいいものではないということは認識しておられると思います。それなら子どもたちのために初心を貫くべきでした。

 それなのに、なぜ推進にかじをきったのか。厳しい言い方ですが、役所の人がいう、重大な違法行為、訴訟、損害賠償請求、などというおどろおどろしい言葉に屈したのではないか。

【助け舟にのらなかった区長】

 私は質疑の中で区が聴取した専門家の意見書を検討しました。自分たちが依頼した弁護士の意見書を、担当者が故意に誤読して、区長に伝えた可能性を考えたからです。やりとりの中で、計画をみなおしても「重大な違法行為」にはならないこと、また、住民訴訟のリスク、まして敗訴のリスクはきわめて低いことを確認しました。

 これは、区長ご自身が住民側に復帰するための最後の助け舟だったのですが、それに区長が乗ることはなく沈黙で答えられたことは残念です。もう前区長のせいにすることはできません。

【リスクはむしろ高まった】

 今回の区長の決断を称して、「幕引き」といった人がいましたが、そんなに甘いものではなく、第二幕、第三幕は容易に想定できます。土地評価の不均衡、汚染問題、軟弱地盤の対策、そしてA街区に何が建つのか、その建設利権、多くの火種があります。区長は事業を変更しないことで法的リスクを回避したつもりかもしれませんが、このまま推進することでむしろリスクは高まると指摘します。

 地盤改良一つとっても、お金をいくらでもかければ解決できるというのが専門家の見解ではありますが、その費用だけでも200億円にのぼる可能性があるとのことで、いま引き返さなかったことにより、今後の巨大な財政負担になるだろうことからも、予算審議にあたりこの事業を認めることはできません。

【杉一小問題は区政の分水嶺

 阿佐ヶ谷、杉一小のことを長々と述べました。これは1地域の問題、1小学校の問題ではなく、区政全体の方向性と、それに対する評価を決定づける区政の分水嶺だからです。

 区長は記者会見で「これ以外にもたくさんのことが現在進行形で起きている。このことだけでなく、区政全体をみてほしい」と言っていますが、区政は個別の事業、学校、地域、人々の集合です。一部の地域、一部の学校をないがしろにする区政は、他の人たちをもないがしろにするでしょう。

 杉一小の移転という重大な事業に関して、住民の不安、疑念をおきざりに見切り発車する以上、他の事案に関しても同じことは繰り返されることになります。その上に成り立つ、総体としてはすばらしい区政、などというものはありえません。

 以上をもちまして反対意見とします。一般会計予算ほか3予算、及び第1号補正に反対とします。関連議案については、議案第14号、31号については反対とし、他は賛成とします。

 終わりにあたりまして、質疑準備の過程で資料調整、また、意見交換にご協力いただきました職員の皆様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。