現在、杉並区は阿佐ヶ谷駅北口の河北総合病院の移転・改築を全面的にバックアップする計画を進めています。このまま計画が進行すると、2020年には「けやき屋敷」の森が全面的に伐採され、阿佐ヶ谷はビルの林立するまちに変貌していくことになります。
阿佐ヶ谷を守りたい。
その思いを多くの方と共有したいと思い、これまで区議会などで述べてきた問題点をまとめました。
<計画の概要>
杉並区は河北総合病院の移転・改築計画を受けて2017年5月、阿佐ヶ谷北東地区の開発計画をまとめました。前年3月に杉並第一小学校の移転計画が確定したばかり。病院の移転を契機に(=移転を実現するために)決まったばかりの計画を全面的に覆すこと自体、行政として異例としかいいようがありません。
資料:杉並第一小学校等施設整備等方針*この文書の「A案」が2016年3月策定のもの。→変更後のものが「B案」。
計画の骨子は:(1)河北病院→けやき屋敷に新築・移転(〜2025年)。(2)杉一小→河北病院が引っ越した跡地に移転(〜2028年)。(3)杉一小敷地→河北病院土地と交換、民間と区の共同で高層ビル建設(〜2032年)。
【問題点1 民間病院のための規制緩和】
この計画は、河北病院と地主さんの利益のために行われる規制緩和(容積率の引き上げ)が本質です。予定地(けやき屋敷)は約10000平米ですが、病院側は32000平米以上の建物を希望しているとのこと。しかし、同予定地の現在の容積率は200%の規制があり、希望どおりの病院は建てられません。そのため、容積率の引き上げを求めたものです。
それは公共の利益ではなく、病院の経営上の利益にすぎません(地主さんにとっても地代の上昇等の利益)。一方、用途地域の変更は住環境の悪化を招きます。住宅地阿佐ヶ谷において、一般の住民が開発で得るものはありません。
なお、区は公共の利益という理由をひねり出すために、病院北側の道路拡張をいいますが、計画地区内の拡張が行われるのみで、河北病院より先の拡張の見込みは全くありません。
【問題点2 けやきの森の伐採】
通称「けやき屋敷」と呼ばれる予定地の森は南西の一部の木を残して全面的に伐採されます(図には「森に囲まれた」などとありますが、伐採しないとビルは建てられません)。「けやき屋敷」は、みどりの少ない阿佐ヶ谷に残された貴重な屋敷林として、杉並区「みどりの顕彰表彰屋敷林」(2012年)、「杉並らしいみどりの保全地区」(2014年杉並区緑地保全計画)に指定されています。守るべきみどりとして杉並区自身が選定したものであり、区には森を守る責務があります。
過去、「杉並区自然環境調査」(第一次1985年、第二次1990年)で「けやき屋敷」の調査が行われ、植物の種の数、多様度、また自然林要素率において大変高いスコアを示しました。逆に帰化植物の率を示す帰化率は非常に低く、区内でも有数の「自然性が高く、安定した植物相」を示しているという結果が出ています。小学校のプールで行われる「ヤゴ救出作戦」では杉並第一小学校は駅前にも関わらず区内で最もヤゴが豊かだそうです。森の恩恵なのです。
★「民間の土地だから…」と思っていませんか?
「けやき屋敷」は民間所有だから、所有者の意向次第、伐採も止めることはできないのでは?と思われる方も多いと思います。しかし上記のように区は「守るべきみどり」と指定しており、所有者を援助して森の保全に努めなければなりません。また、今回は公的な制度(規制緩和、都市計画)を利用して開発を行う予定ですので、そのなかで「緑被率」や木の本数の維持、「地区施設」としてみどりを指定するなど、保全のための制度は法的にも保障されており、開発の当事者(所有者)は決定されたら従わなくてはなりません。
【問題点3 区にとって不利な土地交換】
「区画整理事業」の実施により、現在の河北病院敷地(地主さんの所有)と杉一小敷地(区所有)の権利交換が行われますが、権利交換においては「照応の原則*」が満たされなければなりません。
*照応の原則:交換される両者の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が大きく変わらないこと。
ところが河北病院の土地は旧桃園川に接しハザードマップでも浸水地域とされています。また、病院の土地は汚染地です。他方、杉一小の土地は駅前の中杉通りに面した一等地であり、標高もやや高く、2つの土地の価値は照応しません。土地区画整理法にも反します。いうなれば区の財産を毀損する(区民が損をする)計画です。
区は杉一小が移転により広くなる、住宅地なので学校の環境がよくなると交換の理由を挙げていますが、杉一小は長く現在の場所にあって地域から愛されてきました。少々広くなるからといって浸水、医療廃棄物の可能性がある土地に移るリスクは無視できません。また、静かな住宅地に移ることは逆に周囲への迷惑となり、他校で学校へのクレームが多くなった例も指摘されています。
★河北病院の地質のわるさはこんなところに
北側、旧桃園川にあたる道路に面した部分が大きく陥没しています(2018年3月撮影)。
↑花壇部分が陥没し穴は奥へと広がっています。
↑配管(多分排水管)が露出しています。
【問題点4 地域の人が知らない】
阿佐ヶ谷駅北東地区を今後どうしていくのかは、地権者はもちろんのこと、近隣住民らに広く意見を求めた上で納得のいく計画を策定する必要がありますが、阿佐ヶ谷の多くの人はこの計画をまだ知りません。阿佐ヶ谷駅前は杉並の顔ともいえるきわめて公共性の高い場所であり、一般の住宅地の建替えとはわけがちがいます。病院も公益性の高い施設です。権利者間の利害調整だけですませてはいけない場所です。
区は「阿佐ヶ谷駅北東区域のまちづくりを考える会」という実態不明の民間団体からのまちづくり提案があったということも述べていますが、その内容については全く公表されていません。
★駐車場をめぐる疑惑
計画が「A案」から「B案」に変更されたにもかかわらず、すでに変更前の案に従って2億円が執行されていました。うち1億3千万円が代替運動場の賃貸料でした(月880万円、平成28年度1億500万円、29年度(4〜6月)2600万円)。当初計画で仮設校舎の運用は平成30年4月からの予定でしたが、使用予定の2年も前から借りており、しかも使用された実績はゼロで全額がムダになりました。
区は駐車場管理会社に転貸し月340〜360万円の賃貸料を得ていましたが、区が借りる前から同地は駐車場であり地主さんは同額程度の賃貸料を得ていたと思われます。それなのに、区が借りた際には1か月当たり550万円も上積みされています。
そもそも学校建て替え時に代替運動場を借りた例はなく、現在工事中の桃二小も他の学校の校庭などを借りています。杉一小の場合だけわざわざ代替運動場を確保するのは不自然です。
さらに、仮設校舎予定地だった「けやき公園」からは馬橋小学校・馬橋公園グラウンドが至近であり、借りていた民間駐車場と距離は変わりません。ますます必要がなかったと考えられ、不当な利益供与と見られても仕方がありません。
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