わくわくの日々

杉並区議会議員・松尾ゆりのブログ

2011年度予算に対する意見

●区の人員削減で1000人の雇用機会喪失
議案に対して意見をのべます。
来年度一般会計ほかの議案を審議するにあたり、まず第一に、行政改革、職員削減と民営化の方向性を転換するのかどうかに注目しました。区ではこの間、スマート杉並計画にもとづき職員定数を1000人以上削減してきましたが、それはすなわち新規採用を1000人抑制したということ、つまりは、区職員になれたはずの1000人の若者が機会を失ったということです。杉並だけではありませんが、この間の公務員の削減が雇用に与えた打撃は決して小さくありません。この観点ひとつとっても、この時期、区は採用人数を回復させ、雇用拡大に貢献する責務があると考えました。しかし質疑を通じ、今年もやはり約90名を削減することになっているとわかりました。
●「官から民へ」は変わらないのか
大幅な人員削減のため、区役所の体制も限界です。ひたすら人を減らすというやりかたはやめて、適切な人員配置をすべきと問いましたが、区長答弁は「区の職員がやるべき仕事、職員でないとできない仕事は何かを明確にし、ケースバイケースで対応する」というもので、残念ながら、やはり「官から民へ」の基本は変わらないようです。
民間委託や指定管理の「官製ワーキングプア」問題については、セシオン杉並等の賃金不払い事件のみならず、このかん、様々に指摘してきました。区は、低賃金、不安定雇用の方たちに、区政の大きな部分をゆだねていることを自覚し、委託、指定管理の労働条件の向上と雇用の安定に責任を持つべきです。
私は昨年11月の第4回定例会で指定管理者制度について質問し、(1)なぜその事業者が選ばれたのかの説明責任、(2)モニタリングの重要性。特に、コスト面だけでなく、サービス向上に資するかどうかの評価が必要、(3)指定管理が最適かどうかの検討、などの点について質しましたところ、ちょうどその後、総務省が昨年末に「指定管理者制度の運用について」という通知を出し、「サービス水準の確保に最も適切な事業者を指定するもので、単なる価格競争の入札とは異なる」と指摘しました。この通知を踏まえ、指定管理にはいっそう厳密な対応が必要となっています。
●図書館の役割は大きくなっていく
片山総務大臣はその後の記者会見の中で、たとえば図書館について、「公共図書館、ましてや学校図書館なんかは指定管理になじまない。行政がちゃんと直営で運営すべき」とも述べています。当区の地域図書館全館指定管理の方針は、現在ペンディングになっていますが、今後の厳しい社会経済状況で求められる自治体の役割、また地方分権で各自治体が独力で政策構築していく必要性に鑑みれば、図書館の役割はますます大きく、むしろ直営でいかにそれらのニーズにこたえ、かつサービス向上できるかを前向きに考える好機ととらえるべきです。
時間切れで質問できませんでしたが、区内各施設にある膨大な図書資料のネットワーク化、行政資料、公文書管理などの重大な使命もあります。まさに区長のいうところの「職員がやるべき仕事」です。
●無理に委託を進めず、新規採用を
他にも指定管理が予定されている施設があります。高井戸地域センターは3施設を一括して指定管理へ移行が計画されているということですが、指定管理は区民センターでは初めてです。はたして指定管理でなければならないのか、ここでも片山氏のいう「コストカットだけでなく、サービスの向上に資するかどうか」の判断が問われます。これら、指定管理が予定されている事業について、本当にそれが最も有効な税金の使い道なのか、見直しが必要です。既定方針を惰性で続けるべきではありません。立ち止まるべきです。
民間委託の学校用務についても質問しました。
今回の事業者選定には2つの大きな疑問があります。1つは子どもたちの処遇に直接大きくかかわる業務であるのに「内部管理業務」と位置づけられ選定委員会8名のうち区民が2名しか入っていないこと。もう1つは、要綱に反して、設立したばかりで事業実績のない新会社が参加したばかりか委託先として選定されたことです。
ここまで無理をして委託を進めなくてはならないのでしょうか。総務大臣が「集中改革プラン」の解除を表明した今日、中央からのしめつけで行革を進めなくてはならないという言い訳は通りません。世田谷区のように、職員の新規採用を行い、職員の育成、技能の継承を行っていくべきです。
●区民の雇用に無関心すぎる杉並区
第二に、雇用対策と地域経済対策。すなわち、働く問題に注目しました。いま、若い人たちの就職先がないことが大きな問題です。中高年の失業はさらに深刻です。雇用対策として、直接的に企業を支援して雇用を拡大する施策について質問しました。答弁では、「国の制度があるので上乗せはしない」ということでした。
ところが、これもまた、私が本会議で質問した直後に新聞報道があり、他区が予算をつけることが判明しました。たとえば、北区「高校生と区内中小企業の合同面接会」、中央区「卒業後3年以内の人を正社員採用したら50万円」、江東区「内定がとれない卒業生の就労体験制度」などです。自治体がやれることには限界があるとはいえ、区民が働き口がなくて苦労していることに、他区では努力を見せています。杉並区は雇用に無関心すぎます。
●商業、製造業の振興策が全くない
雇用拡大のためにも産業政策が重要です。質疑では、産業政策の目玉である電子地域通貨について質問しました。この事業の内容も精査したほうがよいとは思いますが、それ以前に、産業振興計画つまり区の産業政策の柱が定まっていないことが問題です。私は2007年の決算特別委員会で質問して以来、この4年間、産業振興計画のローリングがいつ動くのだろうかと、質問もしてきましたし、注目してきました。しかし、結局2003年策定の計画がそのまま存続し、宙ぶらりんになっています。
商店街振興ひとつとっても、商品券事業は行われていますが、目標とする商業の姿やそのための振興策がありません。商品券事業が有効でないとは言いませんが、商店街の衰退は構造的なものであり、単純に消費を増やすだけでは解決しません。調査・研究をふまえて、方向性や目標を定める必要があります。
また、区は製造業に関しては、さらに無策としかいいようがありません。区から製造業がなくなってしまってよいのか。バランスあるまちづくりの点からも大きな課題ととらえる必要があります。これら産業政策の立ち遅れは、区民生活にとって重大な問題です。
●やっと実現した地域包括支援センターの体制強化
第三に福祉です。地域包括支援センター(ケア24)の体制強化、介護者支援、おむつ代の現金支給など、区民団体とともに、私が4年間言い続けてきたことがやっと部分的にせよ実現しました。しかし、介護の必要な人を直接支える独自施策は介護者支援年間24時間などにとどまり、介護保険制度の問題点をカバーするための独自施策としては全く不十分です。
今回、高齢者訪問事業の充実、そしてそれを契機に、これまで何度言っても実現されなかったケア24の人員強化が打ち出されたことは画期的なことだと思いますが、第一線を民間まかせにするのでなく、行政が前面に出て、区民と苦難をともにし、解決する姿勢を打ち出せないものか。たとえば直営のケア24を設置するなどして、職員をもっと増員し、福祉に全面的に責任を負うべきではないかと思います。
杉並では、「高齢者は介護保険でOK」すなわち民間まかせという方針がずっと続いてきましたが、今後いっそう高齢化が進む中、介護保険だけでは不十分であり、行政の責任で高齢者福祉を再構築する必要があります。
●前区長の福祉否定から転換を
福祉分野は前区長の時代に、大きくゆがめられました。前区長の考え方は、「平等はまちがい」といって、福祉にはお金をかけず、自助努力、自己責任にまかせる。そして、健康で、福祉制度を使わなくてよい人に恩典を与えるというものでした。たとえば長寿応援ポイント制度。この事業は、からだが不自由で困っている人は恩恵にあずかれません。逆に元気な高齢者ほど特典があるというものです。高齢者の健康づくりといいながら、80歳の人が健康づくりの教室に参加して1ポイント50円なのに、60歳の人がパトロールをすれば5ポイント250円。どう考えても、矛盾しています。
子育て応援券は見直されますが、習い事に利用されるなど、補助の必要がない部分に手厚い制度で、他方子どもたちの福祉制度である保育はおきざりにされてきました。
●公的保育を放棄する国には反対すべき
このように福祉を否定してきた区のあり方を全体として転換することが必要ですし、さらにそれだけでなく、国の制度の不備な部分について、住民の立場にたってはっきりと意見を言っていくべきです。
保育について、多くの質疑がなされました。深刻な待機児童の増加に対し、緊急の対応としてなされたはずの保育室事業がすでに3年目を迎えます。もはや緊急とは言い難く、無認可施設を区がどこまでも増設していくことは問題です。国の「こども子育て新システム」の動向は不透明ですが、杉並区は保育の公的責任を放棄しようとする国の方針に反対し、その動向いかんにかかわらず現状の認可基準を守った保育園を拡充していくべきです。 しかし、その姿勢は見られません。
●南伊豆健康学園の廃止は早計
教育分野では、南伊豆健康学園の廃止決定と保養地型特養構想の唐突な発表がありました。保護者の神経を逆撫でするようなこの間の動きを見ても、来年度いっぱいの廃止方針には納得できません。また、小中一貫教育をてこに、学校統廃合を推進する教育委員会の手法も、地域住民の思いとはうらはらです。小中一貫校の話し合いでも、テーブルについたときには、すでにそこに図面が載っていたと聞きます。初めから統合ありきでは住民参画とはいえません。
教育委員会は学校支援本部や地域運営学校という手法を用い、「学校づくりはまちづくり」との標語をかかげながら、学校選択制で地域と学校が乖離している状態は矛盾しています。このような教育委員会の姿勢が、区長が交代しても、全く変わらず続いていることには大きな失望を禁じえません。
荻窪まちづくりに多様な価値観
5点目にまちづくりについてのべます。荻窪まちづくりについて質問しました。
区長は就任以来、「価値ある住宅都市」をかかげ、予算案も「質の高い住宅都市」と銘打っています。来年度は、専管組織が新しく設置されるとのことであり、田中区政の中でも、比重の大きな分野と受け止めます。では、いうところの杉並の価値とは何か、まちづくりの中で何を尊重するのかが問われます。
荻窪の開発を巡っては、北口が商業地域であり、地主さんらが「地価を上げたい」と考えて、ビルの林立する街をめざしているのに対し、南口は閑静な住宅地であり環境を守りたいという要望があります。同じ荻窪でも南北は対照的で、住民の価値観は多様です。荻窪駅はいま北口整備工事が進んでおり、もうすぐ完了。南口の131号線も何年もかけてやっと整備されたところです。残った荻窪の課題はさらに難題です。
これらをどのように解決していくか。基本構想策定、さらに都市計画マスタープラン策定の中で、十分な議論と合意形成過程が必要になっていくと思われます。
●外環道延伸を評価する区長に疑問
まちづくりに関連しては、外環道による環境破壊が危惧される中、区長が外環道を積極的に評価する姿勢は、どうにも理解できません。これら都市整備の課題に関して、区が開発優先に傾くのではないかとの危惧をぬぐうことができません。
以上、5点にわたって、予算審議の中で見えた区政の問題点について指摘しました。こうした視点から見たときに、区政は区民の側にたって大きく転換したとはいえず、予算案には反対いたします。したがって、議案第25号平成23年度一般会計予算、ほか各会計予算に反対します。なお、議案第4号、5号、6号、7号、14号、15号には反対し、このほかの議案には賛成いたします。
最後になりますが、今回の予算審議にあたって、多くの職員の皆様が、資料作成にご協力くださり、またご多忙の中、丁寧にご教示くださったことに、心より感謝申し上げ、しめくくりといたします。